Akiko Horiuchi
オリバー・マースデン
「 In Praise of Light 」
2022年5月20日(金) - 6月30日(木)
この度 Gallery38では、英国人アーティスト、オリバー・マースデンの日本での12年ぶりとなる個展「In Parise of Light」を開催いたします。 本展では、2009年から数年に渡り、作家が滞在した長野・小海町でのレジデンス期間中とその後の数年間に制作された作品の一部が展示されます。
オリバー・マースデンは、30年以上にわたって作品を制作してきました。日々の出会いや旅、ダミアン・ハーストのスタジオで働いた影響を受けながら、彼の作品は進化してきましたが、その活動は、光、水、空気といった自然の要素や音楽による超越的な体験に大きく焦点を当てたものであり続けています。「90年代の初めに美術大学に通い、その大半を野原やナイトクラブでスピーカーのまわりで踊って過ごしました。結局は、光と音楽への愛であり、そしてその愛が導いてくれる旅なのです。」
車の塗料やアクリル、オイル、スプレーなどの様々な素材を使い、独自の手法で創り出される鮮やかな光を放つフォルムは、見る者を虜にしながらもその全容を捉えさせません。
作り出される作品そのものは幽玄な雰囲気を漂わせていますが、マースデンは理路整然とした手法で制作に取り組んでいます。彼はまず、様々な形式の瞑想や呼吸法を実践し、穏やかで明晰な感覚を得ることで、創作のための心理的準備をします。さらに、塗料の飛散から身を守るためにマースデンが装着する防毒マスクによって、より集中は深まります。マスクを装着することで、自分の呼吸を強く意識するようになる、と彼は言います。
「息を強く吐き出すと、絵を結露させてしまう可能性があるので、自然な呼吸で安定させることが重要なのです。マスクのおかげで、知らず知らずのうちにアーナ・パーナ瞑想をするようになり、集中できる精神状態になりました。今ではマスクの使用は減りましたが、呼吸法の練習は続けています。」
マースデンは、テーマに沿ったシリーズ作品を制作する傾向がありますが、その繰り返しの作業は、創造的な進化と循環の感覚をもたらすマインドフルネスの一つの形として存在します。そのため、彼が制作するそれぞれの作品は、ある特定の時点と彼の芸術的実践の進化の両方を記録する、進行中の視覚的な日記の一部となっています。
例えば、2009年に小海町高原美術館で開催された日本での初個展「In Praise of Light」では、6ヶ月間の滞在中に33点の作品を制作しました。マースデンは次のように語っています。
「振り返ってみると、小海町での滞在はとても特別なものでした。このレジデンスは、集中するための空間と機会を提供してくれました。また、旅をして、日本の文化もたくさん体験しました。特に印象に残っているのは、奈良国立博物館で開催された天平時代の国宝展を見たときです。私は鑑真和上の彫刻に衝撃を受けました。衣のラインには流れるようなバランスがあり、彫刻に生命を与えていました。僧衣のひだが音楽のように流れていくのを目の当たりにしたとき、私は動けなくなりました。そしてその瞬間、私は絶対的なつながりを感じたのです。過去と現在の人類とのつながり、そして宇宙との一体感を胸の中で感じたのです」。
マースデンにとって制作はルーティンを必要とするものですが、制作の原動力となるのは一瞬の出会いや、作家が「シンクロニシティの感覚」と表現する、観察と思考が一致して、調和や全体性の強い感覚を生み出すようなものであることが多いのです。
例えば、本展で展示される「ハーモニック・ペインティング」の最初のコンセプトは、マースデンがスタジオで無意識にバケツの水に小石を投げ入れたことから生まれました。マースデンは、水面の波紋を写真に撮り、そのイメージが空間を振動する音波のイメージと結びつくことに気づきました。「色彩を放つ巨大な液体スピーカーを想像し始めたのです」と彼は回想します。このシリーズの初期の作品では、マースデンがエアブラシで絵具を吹き付けながら腕を回転させることで、半透明の光の輪を作り出しました。やがてマースデンは電動式の「スピン・マシーン」を設計します。そのうちのひとつは、壊れた椅子を壁に取り付けたもので、刷毛で塗ったりスプレーをかけながら回転させることで、より正確で流動的、そして奥行きのある作品を制作することができます。このシリーズの最も新しい作品は、中心がほとんど黒に見える強烈な色の球体を描き、それが外側に広がるにつれて明るくなり、最終的には白に戻るというものです。この色と形の変化は、息を吸って吐くという自然な動作と共鳴し、見る者の視線を自分の身体だけでなく、アーティストの存在にまで引き戻すことになるのです。
一方、「Liquemorph」は、作家がアメリカに留学していた1996年に始めた最も古いシリーズの一つで、作家の具象への挑戦から発展したものです。このやや伝統的な基礎はすぐには見えないかもしれませんが、マースデンは、霧のような色合いの中に浮かんで見える球状の形を「幾何学的な人間の要素」だと表現しています。「このシリーズを始めたとき、私は人間と自然との関係に興味がありましたが、同時に、クラブのダンスフロアでドライアイスの煙とライトに囲まれて空間を動き回るような抽象的なものとしての身体にも興味がありました。そして、そこにはお互いが繋がるような強い感覚、物がぼやけていくような感覚があります」と、彼は説明します。最近になって、マースデンはこのシリーズを、仏教の瞑想や、目の中で錯覚を起こし、イメージの知覚を変化させる残像の概念と結びつけて考えるようになりました。実際、私たちが表面を眺めていると、球体の形はほとんど震え、脈動すると同時に背景から浮かび上がり、また背景へと後退していくように見えます。このように、イメージは無限に更新され、私たちがキャンバスに戻って考えるたびに新鮮な視点を提供してくれるのです。
Photography: Osamu Sakamoto
オリバー・マースデン
1973 英国に生まれる
現在は英国・グロスタシャーを拠点に活動している
2007 Science Ltd. イギリス
1997 MFA Drawing & Painting, Edinburgh College of Art,イギリス
1995 BA Hons 1st Class Drawing and Painting, Edinburgh College of Art, イギリス
1994 Erasmus, Ecole des Beaux Arts Montpellier, フランス
展覧会詳細 :
オリバー・マースデン
“ In Praise of Light “
会期: 2022年5月20日(金) - 6月30日(木)
開廊時間: 12:00 - 19:00
休廊日: 月、火、祝日
会場: Gallery 38
東京都渋谷区神宮前2-30-28
Telephone: 03-6721-1505
Email: contact@gallery-38.com